日田玖珠地域産業振興センター

地域を盛り上げる酒造りを目指す井上酒造

1804年創業の歴史と伝統のある井上酒造。現在社長を務めるのは、伝統の酒と故郷を盛り上げたいとの思いで5年前に日田に戻ってこられた井上百合社長です。そんな井上社長に酒造りと故郷の日田への思いを伺いました。

日田の発酵専門家との共同開発”酒花とろり”

井上酒造は1804年、文化元年の創業です。今年で215年目ですね。
麦焼酎の「初代百助」は創業200年を記念して出したもので、215年前に井上酒造を始めた当主の名前にちなんでいます。百助と「角の井」、それに自分が作った銘柄の「百合仕込み」の3つが井上酒造の柱です。あと、おすすめがこの「酒花とろり」です。

-これはお酒ですか?

酒粕をダブル発酵させたものなんですよ。アルコール1%以下で甘酒と同じく食品の扱いです。1回発酵させた後にもう1回発酵させてアルコールを飛ばしているので甘酸っぱいですよ。豆乳で割るのがいちばんおいしいですが、炭酸水で割ってもおいしいです。あと、ドレッシングにしてもおいしいです。ヨーグルトやアイスクリームにかけても合いますよ。
日田の発酵の専門家との共同開発で、完成までに1年かかりました。離れていたからだと思うんですけど、改めて故郷が美しいことに気付いたんです。それで、日田の良さをもっとみんなに知ってもらいたいという思いと、日田の人と何かやりたいという郷土愛を炸裂させました。

日田への強い愛と決意

-日田に戻って来られて何年ですか?

丸5年です。去年の10月に社長に就任しました。

-日田に戻ってこられた経緯は?

私は二人姉妹の長女なんで、後を継ぐということはわかっていました。結婚の際、お互い長男長女でどちらも名前を譲りたくなくて、それで家同士の話し合いがあったんです。その結果、うちは名前も譲りたくないけれど、それより200年続く家業を譲れないと言いました。すると、3年後に井上酒造を継ぐという約束で結婚することになったんです。その後は福岡に住んでいたんですが、ちょうど3年ほど経って日田に戻ろうとしていた矢先に主人が東京に栄転することが決まりました。そこで、また話し合いを持ったところ、当時社長だった父が「無理やり戻しても後悔するだろうから、あと3年ぐらい行ってきなさい。」と許してくれたんです。ところが、子どもが生まれそのまま東京で20年が経ちました。

娘が20歳になったある時、「話がある。」と改まって言われ二人で食事に行ったところ、「今まで育ててくれてありがとう。無事に20歳になりました。これからママはママの人生を歩んでください。今、日田に帰らなかったら一生後悔するよ。」って言ってくれたんです。一度も娘の前で家業のことは言わなかったのになぜわかったのかと思います。私は子育てについて人格を育てる大切な役割だと思って、一生懸命娘のためにやってきました。その娘が20歳になった時に母親に人生のアドバイスをしてくれて、それで、私の子育てが間違っていなかったんだなと嬉しかったんです。

ところが、夫に改めて「あの時の約束はどうなりましたか?」と聞いたところ、「自分は責任のある立場だし、この仕事を全うしたい。東京にも住み続けたいのでもう継ぐ気はない。ごめん。」と言われました。どうしようかと思いましたが、日田で長い間待ってくれている両親と、「ママの人生よ」と言ってくれた娘のことを思った末に、後半の人生は別々の道を歩みましょうということになりました。

それだけ日田への愛が収められなかったんですが、帰ってみると改めてこっちの夕日がきれいなことに気づきましてね。高校生のころは夕日がきれいなんて思ったことなかったのに。そのうえ、同級生たちが内緒で「帰ってきてくれてありがとうの会」を開いてくれたんですよ。何十年も不義理をしていたのに、みんなに「ありがとう」って言われる。それで、日田の人たちってなんて暖かいんだと思ったんです。それからは、もっと日田を愛する人を増やしたいと思って、日田の水で、日田の米で日田の酒を作っていこうと決めたわけです。なので、何があっても挫けずにやっていけると思います。

品質と伝統を大切に、そして挑戦を続ける企業でありたい

-いつかは後を継ぐと思っていて、そこに娘さんによって後押しをされたことでスイッチが入ったわけですね。ところで、後を継ぐ準備はしていたのですか?

いえ、専業主婦でしたし、帰ってきた当初は何もわかりませんでした。月次も読めないぐらい。でも、一から学びながら、経営の専門家にも手伝ってもらってやってきました。自分で決めたのは、経営理念の「品質」「伝統」「革新」です。ものづくりに対する思いはこの3つがすべてですね。品質を第一に考え、伝統を大切にしつつ、新しい挑戦を続ける企業を目指すということです。それから心を込めて製品を作っていますが、私たちにできるのは製品を出荷するまでなんですよ。だから、こうやって発信してくださる方に託すしかなくて、私たちの思いをどうかよろしくお願いしますって思います。わざわざここまで来てくださる方には本当に感謝です。
井上酒造では年に1回、4月の第2日曜日に蔵開きをやっていますが、観光地でもないのに遠くから来てくださる方もいて、心から「ようこそ。ありがとうございます。」の気持ちでいっぱいですね。
そして、井上酒造は200年以上にわたり地域と共に成り立って今があります。人、自然の恵、全てに感謝の気持ちを忘れず、酒造りを続けていきます。

〜歴史と情熱にあふれたお酒をぜひ味わってみてください〜

酒造りに情熱を注ぎ続けている、井上社長。強い意志が伝わります。伝統を重んじながら、自ら原料を栽培するなど進化し続けている酒造です。絶対に真似できない品質と誇りがあります。新しい発想から生まれた”酒花とろり”はアミノ酸たっぷりの、甘酒のような、甘酒ではない、酒粕がかおる未体験の美味しさです。お酒が飲める方も、飲めない方も、こだわりの製品の数々をぜひ味わってみてください。

連絡先

株式会社 井上酒造
大分県日田市大字大肥2220-1
       

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